みなさんこんにちは。今年の2月は例年になく寒波到来が多く、海もシケで、なかなか漁師さんたちの思うような漁が出来なさそうで大変そうです。漁師さんが大変ということは、我々仲卸しの魚屋さんもお魚が手に入らないため大変です。我々仲卸しが大変ということは、我々がお届けするお魚たちを待っているお店の方も大変です。お店が大変ということは、そのお店のお客さんも美味しいお魚が食べられなくて大変です。つまり、寒波やシケが続くとみんなが困る、みんなが迷惑するということです。
天気の神さん、この時期少しくらいは仕方ありませんが、どうかシケを少なくして漁師さんやお店のお客さんが困らないようにしてください。パンパン 二礼二拍手一礼、合掌~
◆山陰の冬の味覚
ところで、この時期の山陰の海の幸といえば、色々ありますが、何が美味しいですかね・・・。赤エビ(甘エビとも言います。フワッと甘くて柔らかくて美味しいですよ)、モサエビ(しっかり甘くてしっかり歯ごたえがあって美味しいですよ)、赤ガレイ(肉厚で煮付にしたら堪りませんね)、ハタハタ(煮ても焼いても素揚げでも本当に美味しいです)、タラ(白子も美味しいですがその身を鍋にしたら最高です)、エテガレイ(私たちはイテと言っています。生の時のニオイはまずまずですが干して焼いたり煮て食べたると美味しいですよ。新鮮なものは刺身にしても超美味しいです)、ビンダコ(耳イカといって本当はイカです。頭のところに耳のようなヒレが付いていて茹でたらミッキーマウスみたいになって可愛いですよ。ショウガ醤油で食べたら絶品です)、あとは貝も美味しいですよね。白バイ(刺身にしたらコリコリ感と甘みが堪りませんね。煮付でも美味しいですよ)、赤バイ(酔うと言われていますが、下処理をきちんとしたら酔いませんしこれほど美味しい貝はないと思います。肝の煮付も最高です)。変わったところではババちゃん(鳥取県沿岸でしか獲れないそうです。見た目は結構グロイですが、鍋にしたらほろほろでとても美味しいです)、ドギ(これも日本海側でしか獲れないのではないかと思います。コラーゲンたっぷりでズルズルさせながら食べるお汁は最高です)。
あれ?何か忘れていませんか?・・・そうです。カニです。松葉ガニ。山陰の冬の味覚といえばやっぱり松葉ガニですよね。あの姿かたちはまさにカニの王様ですよね。正面から見ても格好いい。上から見ても格好いい。横から見ても格好いい。風格すら感じられますよね。それとやっぱり味ですよね。そして味だけでなく食感もいいですよね。少し塩味が効いていて甘味の中にも旨味がしっかりと出ていて、噛むと繊維の一つひとつを感じられるあの感じは他にはないですよね。松葉ガニ、最高です。
松葉ガニというのは漁期が11月から3月までと結構長いのですが、今2月だけにしか食べられないカニもあります。若松葉ガニといいます。若松葉ガニは松葉ガニが脱皮して半年以内のもののことを言います。言ってみると松葉ガニになる一歩手前のものです。甲羅や殻は少し柔らかめですが姿かたちは松葉ガニそのものです。松葉ガニほど身は詰まっていませんがその分みずみずしく、また、ほんのり甘みがあって美味しいです。私は食べにくい松葉ガニより若松葉ガニの方が好きかもしれません。値段も結構お買い求めやすいものですし。
◆カニの茹で方
ところでみなさん、カニを茹でる時の方法、というか段取りってご存じですか?・・・って、ゴメンナサイ、ご存じである筈がないですよね。茹でガニは何段階ものプロセスを経て完成します。格好良くプロセスと書きましたが、要は何段階かの工程を経なければなりません。
まずは、生け簀(水槽)から美味しそうなカニを選びます。次にそのカニを絞めます。そうしないと茹での途中で、熱さのあまりカニが自分で指を切り落としてしまいますので。その絞めたカニをきれいに洗います。洗った後はゴムで足をそろえて固定します。そこまでやってやっと茹でに入ります。茹でに入る前に茹での準備も必要です。茹で用釜をセットします。セットと一言で書いていますが、うちの場合はカニ専用のガス釜などありませんので、昔ながらの大きな羽釜をこれも昔ながらの大きな五徳コンロの上に置いて水を入れます。プロパンガスの五徳コンロで結構大きなものですので12,000kcalくらいのパワーがあります。五徳コンロの上で青とだいだい色が混ざったような炎が踊っているその姿は、ハウルの動く城に出てくる火の悪魔カルシファーが怒った時のような感じだと思ってもらえれば合っていると思います(笑)。お湯が沸くのに30分くらいでしょうか。その間に塩加減を調整してカニの足がきれいに「気をつけ(・・・っていうのかな?)」の形になるのを待ちます。
準備が整ったらいよいよ茹でに入ります。吹きこぼれないように、でも火の勢いが弱まらないように細心の注意を払いながら茹であがるのを待ちます。茹であがったらしばらく冷ましてから最後の洗いに入ります。カニの甲羅に着いた黒いやつ(カニビルの卵)をきれいに落としたりして最後の整えをやります。よく写真とかでカニビルの卵付きのものを見かけますが、うちではきれいに落としてからお出しするようにしています。味には関係ありませんし、カニビルが無くても十分に松葉ガニの風格を感じられますので。最後にきれいに洗って完成です。
◆美味しくなーれ
先ほど、カニを茹でる時の工程で「絞める」と一言で書きましたが、この工程が私は一番嫌です。絞めるというのはカニを殺すことを意味します。さっきまで水槽の中で元気よく動いていたカニです。たまにカニと目が合うこともあります。ぴょこんと飛び出た目をこちらに向けて睨んでいるのでは?と思うこともあります。そんな元気なカニを私が殺すんです。命を奪うんです。もがき苦しみながら死んでいく姿を見ているんです。ちょっと嫌なものですよ。カニは我々人間にとって食べるものだから仕方がないのはわかっています。水揚げされたカニは私たちのお腹の中に入ることが幸せであることはわかっています。でも、やっぱり毎回々々カニがもがきながらこちらを恨めしそうな目で見ている(ような気がする)と、ちょっと「うーん・・・」となります。
そんな時私がカニに向かって言う言葉があります。それが「美味しくなーれ」です。もがきながら息絶えていくカニたちに向かって「美味しくなーれ、美味しくなーれ」と言って、まるで念仏を唱えるように呟きます。そうすると多分気のせいですが、カニたちが少しおとなしくなるような気がします。落ち着いて息を引き取っていくような気がします。人間の思いを感じて「そう思ってくれているんなら、まあいいか。美味しくなってやるか」と思ってくれているような気がします。本当かどうかは分かりませんが、私はそう思います。
ひょっとすると、この「美味しくなーれ」は私自身の気持ちを落ち着かせるために私自身のために呟いているのかもしれません。たぶん、そうなのでしょう。でも、私たちは他の命を頂いて私たちの命の糧にしています。他の命を犠牲にして私たちは生きています。そのことは間違いない事実だと思います。そうするとやっぱり食べ物(生き物)を粗末にしてはいけないんだろうな、食べ物(生き物)に感謝する気持ちを忘れてはいけないんだろうなと思いながらカニを茹でています。
◆おまけ
じゃあ、「魚はどうなんだ?」という声が聞こえてきそうです。魚たちは私たちが競りをする前にすでに死んだ状態で競り場に並べられていますのでそれほど強く「美味しくなーれ」とは感じないのかもしれません。あと、やっぱりカニはあの目と、もがく姿からこんなことを感じているのだと思います。でもやっぱり魚に対する感謝の気持ちも持っています。
あ、お願いです。今回こんなことを書いたからといって松葉ガニを嫌いにならないでくださいね。カニへの感謝の気持ちは、召し上がるみなさんを代表していつも私から伝えていますので。それに何と言ってもカニは美味しいですからね(笑)
はい、ということで今回は食べ物に感謝しましょうということについて書いてみました・・・?(笑)
それでは次回も乞うご期待です。さようなら。