みなさんこんにちは。新聞ではアメリカと中国の首脳会談が行われて、中国の思惑(台湾統一を支持してほしいとか)をトランプさんにぶつけたというような話が出ていますが、相変わらずAIのニュースも多いですよね。オープンAIのエージェントがオーストラリア政府のウェブサイトに進入したとか、世界だけでなく日本でもAI向けのデータセンターの建設ラッシュが起きているとか。
北海道苫小牧市にはソフトバンクが300MW級のデータセンターの建設準備中だそうです。秋田市では自治体と企業が組んで500MW級のものを作ろうとしていたり、広島県では半導体の会社が共同で地域最大級のものを建設していたりしています。他にも全国各地でデータセンターが作られたり作ろうとしているそうです。凄いですよね、AIがもたらす経済への影響って。
と、こちらはAIのデータセンターとかそんな大それたものではなく、もっともっと生活感のある話です。うちも鮮魚加工場を新築することになりました。「加工場」といっても、鮮魚を扱う作業場だけじゃなくて、事務所も倉庫もひとまとめ。いわば“澤鮮魚の新しい基地”みたいな建物をつくることになったわけです。まあ、基地と言ってもウルトラマンのウルトラ警備隊の基地みたいに色んな機械が壁一面をびっしり埋めているわけではなくて、普通の壁で普通の屋根で普通の建物です。ちゃんと工務店さんにお願いして建ててもらっています。
で、鮮魚加工場を作る場合、普通ならここで保健所に相談するんですよ。「図面を見せてください」「排水はこうしてください」「床材は水洗いできる素材で」「腰壁は防水で」「換気扇はここに」「虫が入らないように網戸を」なんて、あれこれ言われる。でも私は、あえてそれをしませんでした。
理由は単純で、「以前の加工場での経験があるから、だいたい必要なものはわかるだろう」と思ったからです。魚屋の経験って、実は保健所の指導よりも“現場の正解”を知っていることが多いんですよね。
たとえば床材。保健所は「水洗いできる素材で」と言うけれど、実際には“水洗いできるだけじゃダメ”なんです。魚の脂やウロコが滑るから、モルタルの仕上げ方ひとつで安全性が変わる。腰壁もただの防水じゃなくて、ホースで水をかけても跳ね返らない角度が大事。換気扇も「つければいい」じゃなくて、カニ茹での蒸気が天井に当たって結露しない位置が必要。虫よけだって、ただ網戸をつけるだけじゃなくて、港からの風向きと季節の虫の動きまで考えないと意味がない。こういう“現場の知恵(・・というと少し格好のつけすぎですかね:汗)”を全部盛り込んで、私は加工場の設計を進めました。保健所に相談しないまま、図面を描いて、設備を選んで、床を仕上げて、換気をつけて、虫よけを考えて……。まるで「保健所の言うことは後で聞くから、まずは魚の言うことを聞こう」というスタンスです。魚がしゃべったら怖いけど。
そして完成した加工場を、いよいよ保健所に検査をしてもらう日が来たわけです。検査員が来て、あちこち見て回って、排水を覗いて、換気を確認して、床を触って、シンクの数を数えて……。
そして一言。「問題なしだと思います」いやもう、この瞬間は嬉しかったですね。
“経験で設計した加工場”が、ちゃんと公的な基準も満たしていたという証明ですから。思わず「でしょ?」と言いそうになりました(笑)。もちろんそんなことはしませんでしたが、心の中ではガッツポーズしてました。
でも、ここで終わりじゃないんです。むしろここからが本番。加工場を運営するうえで、設備よりも、素材よりも、換気よりも、虫よけよりも、もっともっと大切な考え方があるんです。それが HACCP(ハサップ) というものなんです。
◆HACCPって?
HACCPという言葉、初めて聞くと「なんか横文字で難しそうだな」と思うかもしれません。私も最初は「ハサップ?ハサップ?なんだそれ?」と、魚の名前みたいに聞こえました。でも実はこれ、食品を扱う人間なら絶対に知っておかないといけない“衛生管理の哲学”なんです。
HACCPは Hazard Analysis and Critical Control Point の略で、日本語にすると 「危害要因分析重要管理点」と言われています。もう漢字が多すぎて、読んだ瞬間に脳が逃げ出しそうになりますが、内容はシンプルです。
どんな危険が起こりうるかを分析し、その危険を最も防げる工程を“重要管理点”として決め、毎日ちゃんと管理して記録する仕組みです。つまり、「気をつけてます」じゃなくて「気をつけた証拠を残す」ための考え方ということです。これがHACCPの本質です。
◆なぜそんな仕組みが必要なの?
魚を扱う仕事って、危険が多いんです。”微生物が増える”、”温度が上がると腐敗が進む”、”青物はヒスタミンが出る”、”異物が混入する”、”加熱が不十分だと食中毒のリスクがある”。こうした危険は、魚屋なら誰でも経験で知っています。「この魚は温度が上がるとヤバい」「この工程は絶対に手を抜けない」そんな“身体で覚えた危険”を、紙に落とし込んで、誰が見てもわかるようにする。それがHACCPなんです。『HACCPは難しい理論じゃない。いつもの作業の“見える化”』ここが一番大事なポイントなんです。
HACCPは、特別なことをするわけじゃありません。普段からやっている当たり前の衛生管理を、「計画」としてまとめて、「記録」として残すだけなんです。
たとえば、”冷蔵庫の温度を毎日チェックする”、”作業台を消毒する”、”包丁を洗って乾燥させる”、”排水溝を掃除する”、”加熱工程の温度を測る”。これらは全部、魚屋なら当たり前にやっていることです。HACCPはその“当たり前”を、第三者にも伝わる形にする仕組みなんです。
◆おまけ…かな? HACCPを“回す”という発想 PDCAという考え方
さて、ここまでHACCPという考え方をお話ししてきましたが、実は私が一番大事だと思っているのは、HACCPを「導入すること」ではなく、“回すこと”だと思うんです。設備を整えて、記録をつけて、「はい終わり」ではありません。むしろそこからがスタートで、HACCPは PDCAサイクルを回すためのエンジン みたいなものなんです。
PDCAというのは、
P(Plan)計画する
D(Do)実行する
C(Check)確認する
A(Act)改善する
この4つをぐるぐる回して、仕事をどんどん良くしていく考え方です。魚屋の世界では横文字はあまり使いませんが、実は昔からやっていることなんですよね。「昨日より今日のほうがうまくいった」「このやり方は疲れるから変えよう」
そういう“現場の改善”を、紙に落とし込んで体系化したのがPDCAです。
HACCPは、このPDCAと相性が抜群なんです。
たとえば、冷蔵庫の温度記録を毎日つけていると、「午後になると温度が上がりやすいな」と気づく。これが Check(確認)。
そこで、「午後の入荷が多いから、扉の開閉が増えているのかもしれない」と仮説を立てる。
これが Plan(計画)。
次に、「午後は作業動線を変えて、冷蔵庫の開閉を減らしてみよう」と試してみる。
これが Do(実行)。
そして、「温度が安定した。じゃあこのやり方を標準にしよう」となる。
これが Act(改善)。
こうして、HACCPの記録が 改善の材料 になり、改善が 新しい衛生管理の基準 になり、その基準がまた記録されて、次の改善につながる。つまり、HACCPは“記録のための仕組み”ではなく、“改善のための仕組み”なんです。加工場という“器”が完成した今は、まさにこのサイクルを回し始める絶好のタイミングなんですよね。設備も新しい、動線も新しい、作業の癖もまだ固まっていない。だからこそ、HACCPの記録を使って、「もっと良くできるところはどこか」「もっと安全にできるところはどこか」と改善していけると思うんです。
HACCP+PDCAというこの考え方は、魚屋だけでなく色んな業務、色んなシーン、色んな所で使える考え方だと思うんです。例えばIT現場でのV時開発+PDCA、アジャイル開発+PDCAとか、建設現場でのリスクアセスメント+PDCA、KY活動+PDCAとか・・・V時開発、アジャイル開発、KY活動あまり知っている人は少ないかもしれませんね。まあ私の言いたいのは、色んな所で使えるのではないかな、ということです。
まあ、いずれにしても、澤鮮魚ではHACCP+PDCAで新鮮でおいしい魚やカニをみなさまにお届けしていくぞ!ということです。
最後はいつものように気合が入ったところで、今日はこの辺りでやめておきます。それでは次回もこうご期待です。さようなら。